東村山には「武蔵野うどん」と呼ばれる手打ちうどんのお店がたくさんあります。地粉を使ったコシの強い手打ち麺をかつおだしベースの肉汁につけていただくのが主流です。
どのお店に行こうかいつも迷ってしまうのですが、先日、夫とランチに入ったうどん屋さんがとってもステキだったので、今回はそのお店をご紹介します。
アットホームな温かいおもてなし
そのお店の名は「ますや」。西武新宿線・国分寺線の「東村山駅」から徒歩13分ほどのところにあります。府中街道を車で走ると交差点の少し奥に看板が見えて、通るたび気になっていたうどん屋さんです。
ガラガラと入口の引き戸を開けると‥。レトロで懐かしさを感じる店内には、入ってすぐのカウンター席と小上がりのお座敷席がありました。お座敷には大きなテーブルが2つ、奥にはもう一部屋あり、そこにも大きなテーブルが。どこかのお宅にお邪魔したような印象です。
お店にいる方たちは、従業員さんもお客さんもお知り合いのような雰囲気でした。


こちらの店主さんはとってもチャーミングな92歳の神山マスさん。それで「ますや」なんですね。
「何にするね?」と聞かれたので、「肉汁うどん」のセットを2つ注文しました。
ほどなく「肉汁うどんセット」が到着。

こちらがメインの地粉うどん。まず麺だけいただいてみます。
ほんのり塩味がついた小麦の味がして、このままでも十分おいしい。武蔵野うどんにはびっくりするほどコシの強いものもありますが、こちらのうどんは太さも硬さもちょうど食べやすい、それでいてしっかりした食感のうどんでした。

セットの天ぷらは、ごぼう、人参、小茄子。そして茹でたほうれん草と小ネギがのっていました。揚げたてではありませんでしたが、肉汁につけると…

ほら、こんな風に油がじゅわっとしみ出て見るからにおいしそう。
バラ肉の入った肉汁が麺に絡まっておいしかったです。
しばらくすると、「これどうぞ、食べてください」と、お店の方がポテトサラダを持ってきてくれました。「いいんですか?」と、遠慮せずにいただきました。リンゴがたっぷり入ったポテトサラダで天ぷらによく合いました。

そして、「途中で味変してくださいね。」と、お店の方からご案内をいただいたのは特製の柚子胡椒。通常ゆず胡椒は緑色ですが、こちらのは赤い!唐辛子がピリリと効いていて、売り物なら買って帰りたいくらいとてもおいしかったです。


こちらが味変セット。他にごまと七味唐辛子もありました。
夫はうどんをもう一枚とごぼう天をおかわり。とってもおいしくいただきました!
今回こちらのお店には取材で訪れた訳ではないのですが、「なんだかステキなお店だな、取材、お願いしてみようかな。」と思い立ち、お会計をしながら「あきつだヨ!全員集合」の取材許可をお願いしてみました。すると店主のマスさんはニコニコしながら快諾してくださいました。
そして…「ここは薪で火を起こしてうどんを茹でているんだよ」、「これから麺を打つから見ていくかい?」と、思わぬ展開になりました。
これぞ手打ち!の手さばきに見とれる
お店の奥にかまどと麺を打つ場所がありました。麺を打つのは御年92歳のマスさん。お店の方に案内されて奥へ入ると麺づくりはもう始まっていました。早い!

大きなこね鉢には地粉がたっぷり。どのくらい入っているのか伺ってみると「1斗(と)」とのこと。1斗は10升、1升(10合)は1.8リットルなので、ざっと18リットルの地粉。小麦の種類によって重さは多少異なりますが、国産小麦1リットル約890グラムにあてはめて計算してみると、約16キロということになります。
我が家では毎年年越しそばを打つのですが、量は1キロ程度、それを考えるととてつもない量です。うどん150玉分とのことでした。この道50年のマスさんが素晴らしい手さばきでさっさっと塩水を回していく様子はまさに圧巻でした。

こね鉢は銅製で一枚の板から打ち出したもの。ステキな漆のこね鉢は塗り替えたばかりということで、お店に飾ってありました(どこにあるか写真で探してみましょう)。


生地がある程度まとまると、待ち構えているビニール袋に入れ、それを担当の方が踏みます。
踏みながら、水加減が「ちょうどいい」とか、「ちょっと硬い」などとマスさんに伝えます。するとマスさんがこちらで塩水を足していきます。計量カップなんてありません。すべて感覚なのだそうです。


最後に硬さを調整するためにちょっと多めにお水を足して、全ての生地がなくなりました。
うどんを踏んでいた方の万歩計を見ると2000歩まであとちょっと。トントントンと足踏みして2000歩にして完了。20分ほど踏み続けていらっしゃいました。
この生地は、風邪をひかないよう(乾燥しないよう)密閉し、一晩ねかせるのだそうです。

こちらが粉を計る一升桝。今日は5種類の地粉をブレンド。その日の状態に合わせて粉の配合を変えているそうです。
地粉をこねている間、工程について詳しく説明してくださったのは、「東久留米手打ちうどんの会」の山口さん。うどんについていろいろ教えてくださり、最後にうどんを延ばして切るところまで見せてくださいました。
お店のうどんを打っているのかと思いきや、本業はタクシーの運転手さんで、打っているのは自宅用のうどんと聞いてびっくり!

この土地に生まれたからできたこと
マスさんは、40歳の時にお母様と一緒に「ますや」を始めたとのこと。昔この辺りでは小麦栽培が盛んだったため、人が集まる時にはうどんを打ってふるまう風習があったのだそうです。
結婚式の時など、うどんを早く出すと「もう帰れ」という意味になってしまうのでタイミングを見計らって打ったという、京都のお茶漬け伝説のようなエピソードも教えていただきました。
そういう訳で、私がいる間にも馴染みのご近所さんが何人もケースでうどんを買いに来ていました。
かれこれ半世紀もうどんを打ち続けているマスさん。「こんなに長くやるとは思わなかった。この土地に生まれたからできたことだよね」と。
カウンターには「祝50周年」のお祝いが飾ってありました。これは、30年も前に赴任されていた警察官の方が、遠方からわざわざお祝いに持ってきてくださったものだそう。マスさんのお人柄が伺えます。
この日お店にいらした方々も、元は保険の外交員として出入りしていたとか、人を介して知り合い縁あってここで働くようになったとか、マスさんの人柄に惹かれて離れがたくなり今ここにいる、という方ばかり。ステキなエピソードをたくさん伺いました。

後列が伊藤さん(最初のシーンで登場するお店の方はすべて伊藤さん)
多い時は日に3~4人の方が、何かしら差し入れを持ってお店に来てくれるのだとか。
また、先日の敬老の日にはマスさんのお子さんとたくさんのお孫さんがお祝いに来てくれたそうです。「本当に幸せですよ」とうれしそうにおっしゃっていました。
薪釜で茹でたうどんはコシが違った!
さて、地粉をこねているマスさんのうしろでは、薪をくべたかまどがお湯をたたえて煮えたっていました。もう、おいしいうどんが茹で上がるしかない設定です。


茹でてくださったのは秀さん。


そして、ゆであがったばかりのうどんを「食べてみて!」と試食させてくださいました!
願わくばこれをお店で出していただきたい。だってコシが全然違いました。並んででも食べたいレベルでおいしかったです。

ぜひ買って帰りたいと申し出ると、マスさんが大きな箱を持ってきて「一人3玉食べるだろ」と、家族分、山盛り入れてくれました。あまりの多さにご近所さんにもおすそ分けして、その日は肉汁を作って天ぷらを揚げて夕食にしました。一日二回いただきましたが、飽きのこない味なので全然大丈夫でした。
夫はうどんをすすりながら、「あのお母さん(マスさん)を思い出すなぁ、さっき会ったばかりなのにもう会いたくなった」と言っていました。そうなんです、食べるだけじゃない余韻のあるお店、それが「ますや」。
今回、お話を聞くうちにマスさんにアルバムを見せていただいたり、ご家族のことや昔行った海外旅行の思い出などを伺ったので、お店を出るときにはすっかりマスさんのお家の人のようになっていました。
だからつまり「ますや」を一言で言うと、入ったときはお客さんでも食べ終わってお店を出るときはマスさんの身内になってしまったような、そんな感じのするお店です。
人と人との関わりが希薄な昨今、こんなステキな体験をしにみなさんも「ますや」を訪ねてみてはいかがですか?


純手打ちうどん「ますや」
住 所:東京都東村山市久米川町4-33-10
アクセス:西武新宿線・西武国分寺線「東村山駅」から徒歩約13分
営業時間:10:00ー17:00(なくなり次第終了)
定休日:月曜日
電 話: 042-393-9481


















